分野を選ぶ

 「実務翻訳業界の基礎知識」でも書きましたが、ひとくちに実務翻訳といっても、その分野はIT、金融、医療・薬品、法律、特許などなど、実にさまざまです。

  実務という翻訳のジャンルを選んだら、次は専門分野を選ぶ必要があります。

 専門知識はあればあるほど、翻訳に有利になります。大学で専攻した分野や、企業で実務経験のある分野があれば、その分野を専門とする翻訳家が大多数です。

これから選ぶのであれば

  しかし、特にどの分野にもバックグラウンドがなく、これから選ぼうというのであれば、素直に自分の興味のある分野を選ぶのが一番だと思います。

 実務翻訳の勉強には終わりがありません。修行中だけでなく、最新の技術や英語表現など、翻訳家になってからも日々勉強です。好きなこと、興味のあることを選ばなくては、大変な苦行を強いられることになります。

  分野によって報酬や需要にも差がありますので、その点を重視して選ぶ人もいるでしょう。実際、特許翻訳家の友人は、勉強を始めるときにあらゆる分野の翻訳料のレートを比較して、報酬が高かったから特許を選んだと言っていました。

  しかし、それも、あまりに興味が薄い分野であれば、やはり避けたほうがよいでしょう。興味を持てなければ、翻訳家として日々成長していく気概を持ち、レベルの高い翻訳を提供していくことは難しくなります。

わたしが医薬を選んだ理由

 わたしの場合は医薬を選んだわけですが、その理由は二つあります。

  ひとつは、大学の一般教養で、ざっと人体のことを学んだ経験があったから。ささやかなバックグラウンドですが、それでもコンピュータや金融よりは、ずっと親しみやすく、興味が持てました。また、基本的に理系のものとされる医薬で、わたしは生粋の文系でしたが、そのときはあまり深く考えませんでした。単に怖いもの知らずだったのですが、それがかえってよかったようです。

  もうひとつは、友人が翻訳学校の医薬翻訳のコースに通い始め、その様子があまりにも楽しそうだったからです。会うたびに、「先生がユニークで、授業の内容も面白い」と楽しそうに話してくれるので、だんだんとわたしも行ってみたいと思うようになりました。数ヵ月後にその友人と同じコースに申し込んだことで、医薬翻訳家への一歩を踏み出しました。

 こうやって見てみると、分野選びひとつでも、昔の経験や友人とのご縁という、それまでばらばらだったものが一本につながり、道になってここまできたのだなと改めて思います。

  翻訳をしていると、こういうことはよくあります。つまり、不意に昔の経験が生きたり、意外なところで人脈がつながったりするのです。遠回りしたと思っていたけど、あのときの経験は無駄ではなかったんだなと思うこともたくさんありました。

  翻訳家を目指して翻訳家になったというと、何か意志を貫いたかのようですが、案外そんなことはないのです。どんなときも頭をやわらかく保って、インスピレーションを大事に、あなたの道を進んでください。

-