翻訳のジャンル

翻訳の三大ジャンル:文芸翻訳、実務翻訳、映像翻訳

 翻訳には文芸翻訳、実務翻訳、映像翻訳という三つの大きなジャンルがあります。

  文芸翻訳は出版翻訳とも言われ、書籍や雑誌など出版物の翻訳です。フィクションやノンフィクション、実用書、児童書など、あらゆる文芸上のジャンルを含みます。

  映像翻訳は映像につける翻訳で、字幕翻訳と吹き替え翻訳があります。一昔前までは映画やテレビのドキュメンタリーくらいで仕事量が限られていましたが、近年、テレビの多チャンネル化やDVDの普及に伴って、翻訳が必要な海外作品の量は増加の一途をたどっています。そのぶん、翻訳家の需要も拡大しています。

  最後が実務翻訳です。ビジネス翻訳、産業翻訳、技術翻訳とも呼ばれ、ビジネスの現場で発生するあらゆる文書が翻訳の対象です。IT、金融、法律、特許、環境、そしてわたしの専門分野である医薬など、さまざまな専門分野に分かれています。のちほど詳しく取り上げます。

 ほとんどの翻訳家は、上のジャンルのうちいずれかひとつを専門としますが、まれに、文芸と実務など、異なるジャンルをまたにかけて活躍している方もいます。

どの翻訳ジャンルを選ぶ?

 これらの中から、自分の興味や適性によって、どのジャンルを選ぶか決めます。

  とにかく翻訳に興味があるけど、何が好きかわからないという方は、まずはどれも試してみて、自分の適性を見極めるのが良いでしょう。

  多くの翻訳学校が、翻訳入門者用に、各ジャンルを取り混ぜて演習するコースを用意していますから、それを利用するのが便利だと思います。

  実際に体験してみると、憧れを持っていた分野が自分にはどうも合わないと気づいたり、逆に意外なジャンルに向いている自分を発見したりするはずです。

ワークスタイルと報酬

 翻訳の仕事は、基本的に在宅フリーランス。これも翻訳という仕事の大きな魅力です。しかし、映像翻訳や産業翻訳は、正社員や派遣社員として会社に勤務するという選択肢もあります。

 また、ジャンルによって収入のシステムや金額が異なります。目指すライフスタイルや、ワークスタイル、収入にこだわるかどうかなども、ジャンル選びの大きな要素になってくるでしょう。

 たとえば文芸翻訳の場合は、ワークスタイルは在宅フリーランスです。

  翻訳料は印税か買い取りの形式で、契約先の出版社から支払われます。買い取りの場合は、本の発行部数に関係なく、決まった金額で一冊分の原稿を買い取ってもらいます。

  ベストセラーを訳せば印税収入は大きなものになりますが、それが期待できるような仕事は、主にベテランの翻訳家にまわるようです。駆け出しの翻訳家が文芸翻訳一本で食べていくのは、難しいと言われています。

 一方、実務翻訳のワークスタイルは、社内翻訳と在宅フリーランスがあります。

  文芸翻訳家でベストセラーを訳したときのような、大きな収入を望むことはできないのですが、安定した収入が期待できます。フリーランスの場合、翻訳家は翻訳会社※1という翻訳専門のエージェントに登録し、仕事を受注して、作業量に応じた報酬を受け取ります。

  専門分野によって、また翻訳家としてのキャリアや力量によって、収入は大きく変わってきます。つまり、駆け出しで仕事が不安定なうちは最悪年収数万円ということもありえますが、一方でベテランの方の中には、年収1000万円を超すスーパー翻訳家もいるのです。

※1翻訳会社というのは、翻訳を必要とするソース・クライアントとフリーランスの翻訳家の間を取り持つ、仲介業者です。翻訳会社の営業担当がソース・クライアント(主に企業)から翻訳の仕事を請け、コーディネーターが登録している翻訳家の中から、専門などを考慮して適任者を選び出し、依頼します。翻訳家は受注から納品まで、一貫してコーディネーターとやりとりします。翻訳家が依頼元のクライアントと接触することはありません。

迷ったときは

 ジャンルを決めるとき、いろいろ迷うこともあるでしょう。翻訳を職業として選ぶ以上は、収入やライフスタイルなど、現実的な面を考慮する必要があるからです。しかし、感性や直感を信じて、自分の好きなこと、楽しいと思えるものを選ぶことも大事です。場合によっては、会社勤めを続けるかたわら、好きな翻訳の道を追求するという選択もあるでしょう。

  翻訳家への道は、誰にとっても試練の道。だからこそ、好きなものを追い求める気持ちはとても大事です。好きだという気持ちがモチベーションを保ってくれ、また道を切り開く最大の武器になってくれます。

 ちなみにわたしの場合は、文芸と実務に興味があったため、翻訳学校でその両方を体験できるコースを受講しました。

  勉強を始めてみてわかったのは、自分に際立った翻訳のセンスがあるとは感じられないものの、どうやら努力と訓練次第で、一定のレベルに到達することはできるのではないか、ということです。

  文芸翻訳をするには、その「際立った翻訳センス」が必要なように感じました。一方で、実務翻訳もやはり難しかったものの、調べものや最新技術の勉強といった実務翻訳ならではの地道な努力は楽しく、性に合っていて、全体的にこれはいけるのではないか、という感触がありました。

 また、翻訳で食べて生きたい、すなわち確実に収入を得たいと思っていたことも、文芸翻訳より実務翻訳に気持ちが傾いた理由のひとつです。

  そんなわけで、入門コースの終わりには文芸翻訳はすっぱり諦め、実務翻訳家を目指すことを決めていました。

-